パッシングレイン 〜 揺れる心に優しいキスを

この先どうなるのか。
私たちはどうなってしまうのか。
恐怖を掻き消すために、先陣を切って部屋の扉を開く。

中に現れたのは、キングサイズのベッドが真ん中に置かれた、よくあるホテルの一室だった。
すぐ左には、ガラス張りのバスルームがある。
分かっていたくせに、実際に目にしてしまうと、心臓を直に掴まれたような衝撃が走る。
入口で足を止めた私の肩を、あっくんがそっと引き寄せた。

こんな状況下。
これから何が起きようとしているか、十分に理解しているから、緊張に身体が強張る。
こうなることを望んでいたくせに。


「二葉……」


あっくんの低い声が耳元で甘く響く。
身体を反転させて、その胸に抱き付いた。
不安と恐怖から逃れるように、腕の力を強めた。
落ちて来た口づけは、さっきよりも深い。

あっくんも、私のことを同じように想ってくれていた。
そう思えて、胸の奥が嬉しさに震えた。

その裏側で、消えては浮かぶ部長の顔。
懸命に消そうとするけれど、一向に消えてくれなくて、罪悪感が頭をもたげる。

これも立派な裏切り。
部長に対して、私も紗枝さんと同じことをしているんだ。

ついさっき嬉しさで満たされた心は、痛みに浸食されつつあった。

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