初恋は叶わない

花火

修ちゃんにごちそうさまを言って、

家の前でバイクを降りた。


「しっかり働いてね!」


って、バイトへ行く背中を、見送る。

ヘルメットで乱れた髪を手ぐしで整えてると、

浴衣を着たお姉ちゃんが、玄関の門を閉めていた。


「お姉ちゃん!どっか行くの?」


駆け寄った私に向って、


「どっかって、かりん、今日、向日町の花火大会だよ?」


私ははっとして、もういない修ちゃんを振り返った。

修ちゃんは、今日、花火って知ってたのかな?

そういえば信号待ちで、浴衣姿の女の子やカップルが、

ゾロゾロ歩いているのを見かけた。



子供のころは、修ちゃんやお姉ちゃん、お母さんたちと一緒に、

ベランダでスイカ食べながら、見たっけな。

昔は遮るものなんて何もなかったのに、

いつの間にか花火がちゃんと見えなくなって。

夏が来る度に新しいマンションが建ったことに気づいたものだった。

そのうち私達も、家族より友達と見に行ったりする年頃になっていき…。

ぼんやりそんなことを思い出していると、


「忘れてたの?」


お姉ちゃんの声に、我に帰った。


「あ、うん」

「あんたの浴衣も出してたあったけど、
今からじゃねぇ…」


そんな意地悪な言い方しなくても。


「着たかったなぁ」


しょんぼり下を向いて呟くと、


「お母さんに頼んでみれば?
私は約束あるから、一緒には行けないけどね」


掴んだ袖を振りまわして、嬉しそうに話すお姉ちゃんは、

なんだかかわいかった。

お化粧して、髪もちゃんとアップにして、かわいい巾着持って、

やっぱ、カレシのいる人は気合いの入れ方が違う。


「デート?」

「まーね!」


ひらひらと手を振って、お姉ちゃんはご機嫌で出かけて行った。
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