初恋は叶わない
「さっきの電話、かけなおしてやれよ。

俺もちょっと…」


言葉を濁しながら、

ポケットのケータイ気にしてる。

さっきは出ないって言ってたのに。

レイナさんからの着信だったって、

イヤでもわかる。

今、この瞬間まで、

私のモノに思えたぬくもりが、

あっけなく離れていってしまう。

そう思ったら、無意識にTシャツの裾を掴んでいた。


「ん?まだ泣いてんのか?」


心配そうに覗き込んでくる顔が近い。

反射的にちょっとのけぞると、

くすっと笑われて。


「そうそう。それくらい警戒しろよ!
オレ以外にはな」


修ちゃんは満足げな笑顔で、

ペットにでもするように、

私の頭をくしゃくしゃ撫でた。

そっちから私に何かするなんてないから、

警戒しなくていいって言いたいの?

そんなはっきり、

対象外宣言しなくてもいいじゃん!

『なんか、ムカつく!』

かっと頭に血が上った私は、

気づくと修ちゃんの胸倉を掴んで、

思い切り背伸びしていた。

そう、私の唇を修ちゃんの唇に突撃させるために。


「いってえ!?何してんだよ、お前!

…って、おい!血!血が出てるー!」


動揺させて笑ってやるつもりが、

なんて間抜けなんだろう。

ぶつかって痺れてる私の下唇に、

修ちゃんの指が触れる。


「痛っ!」

「あーあー」


じんわりと血の味が、悔しさと一緒に、

口の中に広がって行った。


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