ロマンチックな恋
ロマンチックな恋


 吸い殻でいっぱいになった灰皿にぐりぐりと煙草を押しつけて、ベッドで健やかな寝息をたてるヤマトを見遣る。
 さっきかけてあげた毛布はもう蹴り飛ばされて、すでにパンツ一丁。いつものことだ。親指を使ってボリボリとお腹をかく癖も、「な、ながいエイリアンがぁ……」という意味不明な寝言もいつものこと。それにしても今日の寝言はいちだんとひどい。長いエイリアンってなんだ?
「ヤマト、風邪ひくよ」
「エイリアンが……つよい……」
「そうだね、強いね」
 意味不明な寝言を肯定しながら、毛布をかけ直してあげる。きっとまたすぐ蹴り飛ばされてしまうのだろうけど、だからと言ってこのままにしていたら風邪をひいてしまう。
 付き合い始めて一年。食事も掃除も洗濯も適当なヤマトを心配して、仕事帰りに部屋に寄るようになって半年。ずぼらなヤマトの世話はもはや日常茶飯事。なんでもない日常。
「マコー」
「ん?」
「マコはおれがまもるー」
「あっは。ありがとう」
 これがわたしの、なんでもない日常。

 ふ、と。こんな言葉を思い出した。
 ロマンチックな恋だけが恋ではありません。本物の恋とは、オートミールを掻き混ぜる行為のように平凡で当たり前なのです。
 ロバート・ジョンソンの言葉だったか。
 確かにそうだと思った。ヤマトとわたしの恋は、決してロマンチックではない。だけどわたしはこの生活が気に入っているし、楽しんでいる。むしろヤマトが夜景を見に連れて行ってくれたり、花束をくれたりしたら、似合わなくてきっと笑ってしまうだろう。
「ああっ、マコがエイリアンのえじきにー、わかったマコ、マコのこういはむだにしないよー、ありがとうマコー、あいしてるよー」
 そんな寝言を聞いてもう一度笑って、わたしもベッドに潜りこんだ。



                               (了)
< 1 / 1 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:11

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

すきとおるし
真崎優/著

総文字数/17,307

恋愛(純愛)21ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
わたしの時間は二年前から止まったまま。わたしの身体は二十七歳になったというのに、心は二十五歳のあの日のままだ。 実感のない、感情のない死が、これほどまでに大きいものだとは。 死というものが、これほどまでに透き通ったものだとは……。
立ち止まって、振り向いて
真崎優/著

総文字数/10,423

恋愛(ラブコメ)9ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
悲しいくらいにわたしを異性として意識していないあの人は、わたしが今夜先輩の部屋にお邪魔したと言ったら、どういう反応をするだろうか。 先輩の部屋を訪ねた理由を「立ち止まって振り向きたかったからだ」と話したら、どう返すだろうか。 きっと大笑いは見られない。 恐らくいつも通りニュートラルな様子のまま「おまえはいつも変なことをするし、変なことを言うね」と、呆れた様子で言うだろう。
叶わぬ恋ほど忘れ難い
真崎優/著

総文字数/44,288

恋愛(純愛)47ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
※更新中※ この恋は、わたしが初めて経験する本気の恋だ、と。すでに気付いていた。一生で一度、あるかどうかの、本気の恋だ。 でもこの恋心は、決して知られてはいけない。成就もしない。それもすでに気付いている。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop