恋風吹く春、朔月に眠る君


「だってぇー、何話してるか分かんなかったけど、にこにこして笑ってたからもういっかなあって」

「もういっかなあ、じゃねえんだよ。司と一緒に待ってようなって約束だったろ」

「うー、そうだった。つかさおにいちゃんごめんなさい」

「謝るのは俺じゃなくて姉ちゃんと双葉な」


杏子から離れた夏凛ちゃんは杏子と私を見て『ごめんなさい』と言ってぺこりと頭を下げた。久々に会った夏凛ちゃんは相変わらず素直で可愛らしい。


「大丈夫だよ。もう話は終わってたし、ちゃんと仲直りしたよ」


私の言葉に続いて杏子も黙って頷いた。


「よかったー。ふたばおねえちゃんとケンカして、おねえちゃんすっごくおちこんでたから!」

「そうなの?」

「うん、昨日からずっとフキゲンだった!」

「般若みたいな顔だったよな」

「棗の夕飯、抜きね」

「げーっ、やだー!」


どっと笑いが溢れる。とても賑やかだ。


「そうだ! ふたばおねえちゃんもごはんいっしょに食べよ? ねっ? いいでしょ?」

「えっ」


夏凛ちゃんの思わぬ提案に驚いて杏子の方を見る。


「今日は司くんと司くんの弟、亮(リョウ)くんが家に来て夕飯食べるの。夏凛は来てほしいみたいだし、双葉が良かったら」

「人数多いのにいいの?」

「今更一人増えたところで変わらないよ」


私の心配を余所に杏子はあっけらかんとしていて笑ってしまった。外でご飯を食べることに関しては、お母さんにご飯を作るまでに連絡さえすれば問題はない。

夏凛ちゃんにきらきらとした視線を向けられているし、ここはお言葉に甘えることにしよう。そして、心配をかけてしまったから杏子のお手伝いをしよう。


「じゃあ、お言葉に甘えて」

「やったー!」


万歳をして喜ぶ夏凛ちゃんが私に抱き着いてくる。本当に可愛い。


「さあ、そろそろ帰ろうぜ。俺は腹減った」


ぐっと伸びをする司はちょっと疲れた顔をしていた。今日はずっと杏子と子供たちに振り回されていたのかもしれない。


「俺も俺もー!」


ご飯と聞いて元気になる棗くんに亮君がすかさずツッコミを入れた。


「棗は夕飯抜きだよ」

「はっ? あんなのジョウダンに決まってるだろ?」

「杏子ちゃんに聞いてみなよ」

「風呂掃除3回」

「ヤリマス」


杏子のお姉ちゃんとしての威厳を感じる場面を目撃してみんなが笑ってしまう。当の本人である棗君はすごく微妙な顔をしていたけれど。

何はともあれ、和やかな雰囲気のままに私たちは杏子達の家に向かった。杏子のお手伝いをしたり、亮君と初めてお話してみたり、夏凛ちゃんと遊んだり、とても楽しい時間はあっという間に過ぎていった。


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