恋風吹く春、朔月に眠る君


「行ってきまーす」


まだ太陽が低い位置で輝く頃、家を出る。学校がある日よりは遅いとはいえ、それでも朝が早いことには変わりはない。それなのにもう、彼は門のところで待っていた。


「別にわざわざ私と行かなくてもいいんじゃない?」

「やーだ、どうせ家に居ても居心地悪いだけなんだから早く出てきた方が良いんだよ」

「ふぅーん」


昨日、私が気付いたからもう隠さなくても良いと思ったんだろうことは分かるけど、それにしてもあっけらかんとしている。心配した私が馬鹿みたい。

溜息を吐きたくなるのを我慢して、学校に向かって歩き出す。その隣に朔良がやってきたことを確認して話しかけた。


「一日中何してるつもりなの?」

「うーん、真面目にピアノ練習するかなあ。飽きたら本読めばいいし」

「飽きたらって言ってる時点で到底真面目にやるとは思えないんだけど?」

「あはは、固いこと言わないでよ。休憩ぐらいいいでしょ?」


へらへら笑って腹が立つ。昔からこういう奴だけど。もうバカバカしくなってきた私は『勝手にすれば』と答えて話を切った。

無言の道を歩く。ぼーっと二人並んで歩いているだけでも落ち着く空間がそこにある。それだけ私達が築き上げてきた関係は大きいんだ。

電車を乗り継いで、桜並木を真っすぐに歩くと見慣れた校舎が見えてきた。門を潜ればすぐに昇降口がある。朔良とはここでお別れだ。


「じゃあ、部活終わったら迎えに行くから」

「ははっ、双葉彼氏みたい」

「失礼なやつだな。放って帰るか」

「あー、もう、ごめんってば。双葉はすぐ怒るなあ」

「朔良が意地悪するからでしょ」

「これは性だから仕方ないんだよ」


人をからかう癖を性だから仕方ないなんて言わないでほしい。流石に彼氏みたいって傷つくし、寧ろ朔良が女々しいだけじゃないかと思う。


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