わたしの意地悪な弟
わたしの理解不能な弟
 チャイムがゆっくりとした音楽をかなで出す。みんながこれからの放課後に恋焦がれる時間。

 だが、わたしの心はいつものように重い。

 鞄を閉じため息を吐いたとき、教室の開きっぱなしの扉から茶髪で長身の男性が顔を覗かせる。

少し茶色の髪の毛は花畑の中に一つだけ毛並の違う花のようでよく目立つ。

もっとも彼のその髪の毛は生まれつきのもので、染めているわけでもない。


 そんな彼に気づいた女子生徒が二人、彼のもとに駆け寄っていく。

 彼は彼女たちと言葉を交わしながら、視線を泳がし、わたしのところで止まる。

 彼は目を細めた。

 通った鼻筋に、澄んだ瞳。肌荒れとは無縁なほどのきめ細やかな肌。

 きっとわたしが彼のことをこうして遠目で見るだけなら間違って恋心でも抱いてしまいそうな、完璧を絵にかいたような笑みだった。

 わたしの机に影がかかり、ショートに釣り目の子が目を細める。

同じクラスの船橋亜子だ。

彼女は艶のある髪の毛に触れると、目を輝かせてわたしの顔を覗き込む。

「今日もお迎えだね」

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