わたしの意地悪な弟
わたしを姉と呼ぶ弟
 十月に入ると、夏の名残りが徐々に消えていき、過ごしやすい時期になってきた。夏から秋にかけてもっとも過ごしやすい時期だ。

 でも、わたしは過ぎ去る夏を懐かしむよりも、過ごしやすい秋を歓迎するよりも樹のことばかり気にしていた。

 気持ちを自覚してからは、その気持ちが一段と強くなり、時間があれば樹のことを考え続け、わたしの思考の大部分を樹が占めはじめていた。

「おはよう」

 まだ、夢のまどろみに浸かっていると、聞き馴染みのある声が耳に届く。

 わたしが目を開けると、目の前にあったのは笑みを浮かべた樹の姿。

「樹?」

 わたしは思わずいつの間にか体の下になっていた布団を胸元に手繰り寄せ、樹から若干目を逸らした。

 彼はわたしの動揺にものともせず、目を細めた。

 ものすごく今、だらしない格好で寝ていた気がする。よりによって何で今日何だろう。もともと寝起きがわるいほうではないのに。

 体全体が熱を帯び、言いようのない恥ずかしさがわたしを支配する。
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