わたしの意地悪な弟
 だが、答えは瞬時に決まっていた。

「わたし」

「返事は分かっているよ。ノーだろう?」

 あまりに的確な返答に、彼に失礼な気がしてすぐにはいとはいえなかった。

「ごめんね」

「俺も引きずるのが嫌だったから、言いたかっただけなんだよ。これですっきりするよ。本当はいわないでおこうと決めていたんだ。花火大会のとき、藤宮が誰を好きなのか気づいたから」

 よみがえるのは樹とキスをした甘い記憶。そして、恵美に言われた脅迫のような言葉だ。

「仲直りできたみたいで良かったよ。好きなんだよな」

 わたしは彼の言葉に目を見張り、頷いた。

 他の人ならともかく勇気を出して告白してくれた相手に嘘を吐いてはいけないと思ったためだ。

「そのことは誰にも言わないでほしい」

「分かっているよ。弟さん、人気あるからね。でも、付き合いだしたときは教えてほしい。もちろん、誰にも言わないから」

 彼はそういうと、明るい笑みを浮かべていた。

 きっとそんな日は永遠に来ないと分かってても、頷いた。

 本当に彼は良い人なのだろう。

 樹がわたしの心の中に入り込んでこなければ、わたしは彼を好きになる可能性があったのだろうか。

 過去に戻れないことは分かっていても、樹を好きにならなかったわたしを想像できなくても、今のやるせない現状はそう思わずにはいられなかった。
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