わたしの意地悪な弟
「このままじゃ、大学落ちそうだし、一浪したら同じ学年か。姉さんと同じ大学に行くのも楽しそう」

「わたしと樹じゃ行く大学も違うと思うよ」

「俺のほうが一年年下だから、選べる立場にはあるよね」

「家に帰ればいつでも会えるじゃない。わざわざ同じ大学に行かなくてもさ」

「そうだけど、そうもできるってこと」

 本当に樹が何を考えているのか分からない。

「大学は大事なんだから、そういうので選ばないほうがいいよ。就職とかその後の人生にも影響あるかもしれないし」

「それは姉さんも同じだよね」

 姉らしい言葉をかけたつもりが、もっともな返しに何も言えない。

 高校一年あまりを中学の延長戦上な生活を送ってきたわたしには、耳の痛い話だ。

「姉さんが寂しくないなら、それでもいいけど。いつでも会いに行ってあげるから」

「寂しくなんかないもの。同じ家なのに会いにいくも何もないでしょう」

 わたしは思わずそう大声で反応する。

 樹はそんなわたしを見てくすりと笑う。

 周りからの視線も心なしか増えた気がした。

 わたしは視線を足元に落とす。
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