社内恋愛症候群~イジワル同期の甘い素顔~
冬空の下、うっすらと汗をかくほど急いでいたが、間に合うとわかった時点で、速度をゆるめて息を整えた。到着するころにはあがった息も落ち着いた。

指定されたのは、素敵な門構えの小料理屋だった。入口の前の鉢には睡蓮の葉の周りを泳ぐ小さな金魚が泳いでいた。

入口の前で立っていると、一台のタクシーが目の前に止まった。そこから安藤さんが降りてきて、私を見つけると軽く手を挙げた。それを見て頭を下げる。

「今日はお時間いただきありがとうございます」

「いやいや。誘ったのはこっちなんだから。ほら中に入ろう」

そのとき、背中に安藤さんの手が回された。そのなんともいえない感触に思わず体が一歩距離をとった。

それを他愛もない話でごまかした。

「このお店にはよくいらっしゃるんですか?」

「あぁ、会社の連中とね。色々と融通が利くし、重宝しているんだ」

暖簾をくぐると、いらっしゃいませという声が店内に響いた。

「あっち、いい?」

安藤さんが声をかけると店の人が「どうぞ」とにこやかに返事をする。

慣れた様子の安藤さんについて行くと、奥まったところにある座敷に案内された。

そこまで広くない座敷は五人ぐらい座ればいっぱいになってしまうだろう。そこにテーブルを挟んで向かい合って座った。

すぐに外から声がかかり障子が開く。店員さんがオーダーを取りに来た。
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