ふたりの日常。~冬の夜~
「まだかなあ」

壁の時計を確認すると、午後10時を過ぎている。ひとつ、あくびが出た。

遅いなあ。

やっぱりサプライズなんて、しなきゃよかったかも。
目の前に広がっている、ご馳走(自称)を眺めて、ため息。

啓介が好きなビーフシチュー、喜んでくれるかな。

今回のは大分自信がある。
本日有給休暇取得のわたしは、飴色玉ねぎにたくさんの時間を費やすことができたからだ。
ふふふ、もしかしたら『啓介のたまにしか見せない本気の笑顔』が見られるかも!
この飴色玉ねぎのエキス最高って言ってくれるかも!
いろんな妄想が止まらない。

しかし。
彼は待てど暮らせど帰ってこない。
忙しいんだ。やっぱり前もって連絡すればよかったかな。

仕方ない。

鍋をコンロから下ろして、サラダにはラップをかけて冷蔵庫へ。
靴を履き、ドアを閉めて鍵をかける。
かわいいキーホルダーが付いた鍵を鞄にしまうと、わたしは歩き出した。

平日の夜は、仕事帰りの人々で溢れかえっていて、ひとりの寂しさを和らげてくれる。

寂しいなんて思っちゃだめ。急に来たわたしがいけないんだ。

わたしは自分自身に言い聞かせると、電車に乗り込んだ。
< 2 / 14 >

この作品をシェア

pagetop