やさしい先輩の、意地悪な言葉
「かわいいクッキーですね」

「だよね〜。ネコとかウサギとかいろいろあるんだよ〜。味はみんないっしょだけどね。遥香ちゃんはなんの動物が好きなの?」

先輩にそう聞かれ、私は「一番好きなのは犬です」と答えようとしたけど……



自分でもなんでそんな風に答えたのかわからないけど……




「……ゴールデンレトリバーです」

……と答えていた。


答えた直後にはっとしてしまった。
しまった、すぐうしろに神崎さんがいて、絶対に話は聞こえてるのに、なんで私こんなこと……。



すると先輩は。

「犬が好きってこと? さっき営業課にクッキー配った時、神崎さんも犬好きって言ってませんでした?」

と、うしろを振り向いて神崎さんに声をかけた。


「ああ、うん。好きだよ」

神崎さんも振り返って笑顔で答える。

ど、どどうしよう……変な風に思われてるよね……?


「神崎さんは犬の中ではどの種類が一番好きなんですか?」

先輩が神崎さんにそう尋ねると。


……神崎さんはちら、と私を見て。そして……。


「……マルチーズかな」

と、にこっとほほえみながら答えた……。



ドキンと心臓が大きくはねて、痛いくらいだった。
深い意味はないのかもしれない。
私が『ゴールデンレトリバー』って言ったから、お世辞みたいな感じでそう返してくれただけかもしれない。
それでも。


私はすごくうれしかった。
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