やさしい先輩の、意地悪な言葉
「……」

「……ちょっと、心配してたんだ」

「え?」

「瀬川さん、おとなしいのに突然今日誘ってくれたから……。もしかしたら俺、瀬川さんになにか勘違いさせちゃってたかなと思って」


勘違い。その言葉に、顔がカァッと熱くなるのを感じて、私は赤くなってるはずの顔を隠すため、うつむいた。



「い、いえ、大丈夫です」

「そう? よかった。じゃあ、また明日」


……うつむいた顔を上げることができないまま、私は小さい声で「また明日……」と答えた。



……これは。

告白する前に、フラれてしまったわけで。


……でも、それは神崎さんのやさしさだと思う。告白してからフラれるより、告白する前にフラれた方が傷が浅いと思ってくれたんだと思う。
少し冷たい言い方だったけど、それもきっと、自分が悪者になるためにああいう言い方をしてくれたんだと思う。


……なんて。

フラれた相手をこんな風にかばってしまうくらい、私は神崎さんのことが好きでーー……。




ーーぽた……。

涙が、頬をつたって地面に落ちた。

だめ、こんなとこで泣いちゃ……。私は慌てて右手で涙をぬぐった。




……失恋なんてどうってことないよ。
神崎さんみたいなやさしくて素敵な先輩が私なんかのこと好きになるわけないって初めから思ってたじゃない。


私みたいな人を好きになってくれる人自体が、隆也も含め、初めからいるわけないってことも、わかってたじゃないーー……。
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