やさしい先輩の、意地悪な言葉
……あれ、そういえば。


「あの……神崎さん、何分前から待っていてくれましたか?」


合流したのはたった今だけど、私が駅に着いた時間はもっと前だ。
でも、私が駅に着くと、神崎さんはすでにここで待ってくれていた。
ネコの銅像に隠れていたのも、そんなに長時間ではないけど、待ち合わせの時間より結構前から待っててくれたんじゃないかな。今だって、まだ本来の約束の時間の十分前なわけだし……。

でも、私がそう聞いても神崎さんは「俺も今来たところだから大丈夫だよ」と言ってくれる。


今来たわけじゃないのはわかってるんだけど、でも、とっくに到着してたのに銅像にずっと隠れてたことも言えないし……。


すると、私がさっき乗ってきた電車と逆方面の電車が到着したみたいで、人がたくさん駅構内から出てきたので。


「そ、そう! 神崎さんのおうちからだと、この電車で来るんじゃないかなと思ってたんです!」

まるでとっさにそう言ってしまったけど、実際、それはウソじゃない。時刻表を確認して、神崎さんはきっとこの電車で来るから、その数分前に到着しておけば神崎さんをお待たせしないなと思って、私はさっきの電車でここまできたから。



すると神崎さんは。


「……瀬川さん、いつも早いから」

「え?」

神崎さんの表情と声は、とてもやさしくて。


「瀬川さんは毎朝、女性社員の誰よりも先に会社に来て、掃除したりほかの人のデスクの整理したりしてくれてるから。
今日もきっと俺に気を遣って早く来ると思ったんだよね」
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