やさしい先輩の、意地悪な言葉
……すごく怖かった。
あんな隆也は本当に初めてだった。
そして……『私と二年以上付き合ってくれたのは、私を好きでいてくれたからじゃなかったかもしれない』と気づいたことにもショックを受けていた。
私は、付き合ってた頃から“都合のいい女”だったみたいだ。


駅まで走ってきた。
人がたくさん行き交ってる見慣れた光景に、なんだか安心した。

でも、安心したはずなのに。少し落ち着いたらさっきのできごとを鮮明に思い出してしまって、足が震えてきた。


「はあ……はあ……」

息が乱れてきて、私はその場に立ち止まり、なんとか呼吸を落ち着かせようとしていた。


……その時。


ーーポン。

誰かにうしろから肩を叩かれ、隆也かと思って私は勢いよくバッと振り向いた。
けど、



そこにいたのは神崎さんだった。



「神崎さん……なんでここに……」

「夕方から取引先の人との打ち合わせがこの辺りであって、これから会社に帰るところなんだ。
瀬川さんこそどうしたの? とっくに帰ったはずなのに、こんなところで。……しかもなんか様子が…….具合悪い?」

神崎さんは心配そうな顔で私を見つめてくれた。

駅の構内は人がたくさんいて安心したけど……神崎さんの顔を見たらもっと安心してしまって……なんだか、


……涙が出てしまった。



「瀬川さん?」

「……ごめんなさい、なんでもないです」


隆也とのことを話して、神崎さんに心配をかけるわけにはいかない。
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