④オオカミさんのプロポーズ エリート課長の専決事項
「そういえば私、最初の頃もオオカミさんと一緒に新幹線に乗ったんだよね」
「…………」

 チラリと横を確かめると、大神は眠っている。

 安心した燈子は、そのまま当時を思い返して、鏡の自分に語りかけた。

「覚えてる?
 それまで私、ずっとオオカミさんのことは怖くって大キライで。

 だけどあの時、初めて一緒に出張に行って、だんだんイメージが変わっていって…
 もしかしたら私、あの時はもう好きになってたのかなあ」


「…うん……そういえば俺もあの日からだな…赤野を意識するようになったのは」

 起きてる!
 
 クルリと振り返った燈子に、彼は瞳を閉じたまま、クイッと口の端だけを上げてみせた。

「ちょっ、待ってよ課長、オオカミさん。
 タヌキ寝入りなんてズルッ……わっ」

 大神は、真っ赤に頬を染めた燈子を、サッと自分の側に抱き寄せた。
 自分の毛布の半分に、彼女の半身を入れ込む。

「声がデカイから、目が覚めたんだよ」
「う、うそだっ!」

 恥ずかしさを紛らすために燈子が出した大声に、彼は少しだけ笑った。

 それから少し眠たそうな掠れ声で、言うともなく呟いた。

「大丈夫…そんなに心配しなくても、きっと全部…上手くいくから」

「別に、心配なんて私は何にも……
 課長……ぉ」 

 それっきり、燈子はなにも言えなくなった。
 毛布の下で、彼がそっと手を握ったからだ。

「まだ3時間もある…少し…眠ろう」
「………ん」
 
 交互に絡んだ指と指に、たがいの脈が伝わった。

 いつもお互いに自分のものだと思い込み、ひた隠しにしてきたそれも、今は二人分の鼓動なのだと分かる。

 2つ先でやっと噛み合う歯車のように、何もかも違う二人だから、不安でいっぱいではあるが。


 それでも、間違いなく。

 出会った日から間欠泉みたいに溢れては消え、それでも絶えず流れている二人の間の幾ばくかの優しい時を、

少しでも長く続かせられますようにと、


それぞれの胸に誓った。


(おわり)

 
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