あの日の桜が舞う時に



ガチャッ



勢い良く病室の扉を開けて、
私は転がり込むように部屋の中へと
入った。



「お母さん!」



そう、叫びながら。



お父さんの電話口での重い口調から
相当悪い病気にでも掛かってしまったのだと、そう思っていた。



タクシーの中でも、病室のベッド
で顔色を悪くしたお母さんの顔を
想像しては、頬を涙で濡らしていた。



今も、頬は涙で濡れている。



けれど、病室の中の想定外の
光景に私は口をポカーンと開けた。



『あら、遥香?
来てくれたの?』



病室のベッドには、ニコニコと
笑みを浮かべた血色の良い母の顔が
あって。



「え...?
病気じゃないの...?」



頭の上にハテナを浮かべたまま、
独り言の様にそう呟く。


『あらやだ!お父さん、遥香に
私が病気だって言ったの?』


お父さんは新聞を片手に
首を横に振る。



『...倒れた、と言っただけだ。』



『そうなの?
もー!遥香はせっかちなのね。
お母さん、ぎっくり腰しちゃって
階段から落ちちゃっただけなの。
頭を強打しちゃったみたいでね、
一応精密検査受けて、数日入院
する事になったのよ~。』



ケラケラと笑いながら話す母親に
私は、深い安堵の溜息をついた。



「何だ、良かった...。
お父さん、ぎっくり腰なら
ぎっくり腰ってちゃんと言ってよ!」



『......すまん。』



基本無口なお父さんは、
必要最低限の事しか話さ無い。



今回の事も、こんな父親の性格が
まねいた事だ。



「まあ、無事で良かったよ。」



本当に、重大な病気とかじゃ
無くて良かった。



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