雪降る夜に教えてよ。
軽く言い争いを始めそうな私たちに、浅井さんがすかさず口を挟んだ。

「また外資系の企業が集まって、親睦会をやるけれど、決定した?」

その言葉に桐生さんは珍しく渋面になる。

何それ、親睦会って聞いたことない。

「何なんですか、それ」

聞いてみると、浅井さんは笑って頷いた。

「秋元ちゃんは、自分の仕事に関係しなきゃ興味出さないからね。年に何回か、親睦会と称して営業みたいなことするんだよ。僕も一昨年行かされた」

それはすみません。
でも、私は営業職でもないし、もちろんそういう会には会社の上役の人が行くようなものでしょう?

知らなくても当然のことだと思う。

「ま、企業同士の情報交換会みたいなものだね。新しいソフトの売込とかもあるし」

「やっぱり僕が駆り出されるんですか? 九月の初めでしょう? 忙しいですよ」

苦笑する桐生さんに、浅井さんはにんまりと笑いながらにじり寄った。

「しょうがないよ。ミーティングで言われている事だし、ほぼ決まりでしょう? 桐生マネージャーは顔が広いんだから諦めてください。それに秋元ちゃんも連れてけって言われていたでしょう?」

え。それって、私も駆り出されるってことですかね。

「まぁ、パーティーみたいなもんだから、秋元ちゃんは楽しんでくればいいよ」

人のよさそうな笑顔の浅井さんを見ながら考えてみる。

パーティー……か。

「そういう華やかな場所は苦手です」

ボソッと呟くと、今度はみんなが面白そうな顔をした。

「そう言わずに秋元ちゃん。フランス料理のフルコースなんて、滅多に食べれないよ」

フランス料理……。

銀食器とか、マナーとか、礼儀とか、とりあえずの愛想笑いとか、アハハおほほ言いながら食事をして、親睦を深めるの?

そんなのはとことん苦手なんですけれど。

「本当に苦手です」

真顔で言うと、桐生さんは肩を竦めてみせた。

「一応まだ正式に決まった訳じゃないし、いざとなったら仕事だから仕方ないよ」

そんな彼を振り返る。
本当に嫌なんですけれど。
そういう集まりって、結構、会社でも上層の人が集まるじゃないか。間違っても新卒で“てへぺろ”な人が来るとは思わない。

想像すると堅苦しいパーティーか、テレビで見たことがあるようなお世辞だらけの祝賀会みたいなイメージが付きまとう。

じっと見つめ返していたら、不思議そうだった目がスッと細められ首を傾げられた。

『どうしたの?』と言う、無言の問い。

結局、その問いには答えずに、視線を逸らせると話題を変えることにした。

「ところで、浅井さんてどこ出身でしたか?」

なんて言うのは少し露骨すぎたかもしれない。

「僕? 僕は長野の方だよ。あっちの高校を出て、こっちの大学出た感じ」

それでものんびり屋の浅井さんは話に乗ってくれて、飲みながら出身高校の話になり……。
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