雪降る夜に教えてよ。
***



「ちょっと、外に出るか」

しばらくするといつも通りにいちゃつき始めた佳奈と夏樹くんを横目に、苦笑しながら桐生さんの手を取った。

コテージから歩いてすぐの所に砂浜が広がっている。
夜の海は暗いけれど、月明かりに照らされて微かな波が見えた。風が時々吹いて、穏やかな潮の香りを運んで来てくれている。

さざ波の音もどこか心地よい。

桐生さんと手を繋いだままに砂浜におりて、私は海の波を、桐生さんは空の月を眺めていた。

「座ろうか?」

そう言われてその場に座り込むと、手を握ったままの桐生さんから、何故か戸惑いを感じて顔を上げる。

「……あっちに階段があるけど。そこだと砂だらけになるぞ?」

あ。ここじゃなかったのか。ちょっと恥ずかしいかも。だから、ちょっと子供っぽく言い張ってみた。

「……ここがいいです」

桐生さんは小さくクスッと笑って一度手を離すと、私を後ろから抱き込むようにして座る。

それからまた手を絡めるように握り直した。

しばらく二人で静かな潮騒の音を聴いて、それから無言で桐生さんが、そっと私の髪をいじり始める。

「……何を考えてたの?」

耳元で囁かれて、ちょっとくすぐったい。

「私って子供みたいだなぁ……って」

「そうだなぁ」

少しも考えずに肯定されてしまった……。

「普通、ちょっと否定しませんか?」

「いいんじゃないか? 純真で」

純真……そんな事は言われたことはないな。

「そんなに純真でもないですよ」

呟きが、なんだかふてくされたように自分でも聞こえる。

そして一瞬の沈黙の後……。

「ひゃぅ……!!」

耳に息を吹き掛けられて、ゾクリと背中を何かが駆け抜ける。

なに!? 今のなに? 慌てる耳に聞こえたのは、桐生さんの楽しそうな声。

「俺は楽しそうな君の目に惹かれた」

唐突に始まった告白に、前を向きながら戸惑う。
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