雪降る夜に教えてよ。
「言ってたね」

「雪が降ると車の音とか生活音が響かないです。柔らかいと言うか……私は昔から雪の日の朝が好きですよ」

「……嫌いなのかと思った」

困ったような、驚いたような声音に顔を上げ、ゆっくりと首を振った。

「色んな出来事があった季節ですけど、私は冬が一番好きです」

微笑むと、桐生さんも少し安心した様に笑う。

「そう……」

「……風のない、雪の降る夜が一番好きです。空は紫色になって、ふわふわと雪が降るのが好き」

それから箸を置いて、小首を傾げる。

「それに、悪い思い出ばかりでもなくなりました」

片眉を上げる桐生さんに、微かに微笑みを返した。

「去年、雪が降ったから、私は桐生さんを知ったようなものですから……」

桐生さんは一瞬目を丸くして、それから少しだけはにかむように笑う。

「そうか。そういうことになるのかな?」

それから、後片付けをしながら、ふとベランダの外を見ている桐生さんの後ろ姿を見つめた。

スッキリした長身は、最初は本当に苦手だった。
そして自信家で強引なところも。
私の生活には相入れないものだったのに、いつの間にかしっくりしてる気がする。

「それで、桐生さん。説明がまだですよ?」

「西川社長を問い詰めた件の事かな?」

「はい」

振り返らないまま、桐生さんは腕を組んだ。

「別に、俺は西川綾とは関係ないからな」

いきなりの言葉に瞬きする。

「や。綾がどういう女性かは高校時代から知っていますから。どうせ熱烈な追っ掛けにあってたんでしょう?」

洗った皿を水切りカゴに入れ、手を拭きながら首を傾げ……。

「それと、今も続いてるなら、グラスの中身はかぶりませんよね?」

桐生さんはガックリとうつむいて、溜め息をついた。

「まぁ、いろいろあるという事だね」

「墓穴を掘っちゃいましたね」

言いながら、スタスタとキッチンから出てソファに座る。

私にある過去があるように、桐生さんにだって過去はある。

それを今、言っても始まらない。
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