雪降る夜に教えてよ。
第二章

春空

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季節は早くも春。空気は暖かく、街にカラフルな色があふれ出す季節。

「おはようございます」

「ああ。おはようございます」

いつもの通りに顔見知りの警備員さんに挨拶をして、私は駅前で買った花束を一つ差し出す。

「どうぞ。守衛室に飾ってください」

「え。いいんですか?」

初老の警備員さんは少し目を丸くしながら、花束を受け取ってくれた。

「華やかでしょう? つい買っちゃって」

「ああ、春ですからねぇ」

警帽を外して頭を下げる警備員さんに一礼して、エレベーターホールに着く。

いつもより人が多い気がするけれど、なんだか緊張した顔が多いな。

「おはようございます」

一声かけると、目の前の一団がバッとに振り返った。

『おはようございます』

一斉に返ってきた挨拶に、少しどころか大いに驚いて退いた。

ぐ、軍隊ですか!?

呆気に取られているうちに、少しだけ騒めきながら一団は到着したエレベーターに乗っていく。

そして鳴ってしまう定員オーバーのブザー。

一人の男性が降りて来て、私の隣に並ぶ。

その人は、やっぱりちょっと緊張した印象を受けるけれど、ぶら下がっている社員証を見て納得した。

所属も何もない入館証は、本来ならお客様専用。

でも、ここは社員用のエレベーターだから、きっと新入社員だろう。

そういえば、今日は新入社員ガイダンスだったかもしれない。

「今日は偉い人が顔を出すだけよ。何百人と新入社員がいるんだから、そんなに個人は見ていないと思う」

彼は驚いたように私を見た。

「え!?」

「今日はどうせ簡単な紹介だけ、落ち着いて望めばいいと思うから」

次のエレベーターが来たので乗り込むと、立ち止まったままの彼を振り返る。

「乗らないんですか?」

「あ。いえっ、乗ります」

新人ガイダンスの会場は確か三階ホールだよね。

オフィスのある階と一緒に、三階のボタンを押してあげる。

新卒かな~。若いと言うか、幼いと言うか。

いや、大人でも子供な人もいるしな。

桐生さんの事を思い出しながら三階につくと、新人さんは素早く降りて、くるっと振り返り、最敬礼みたいにビシッと立った。
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