1ページ過去編
落ち葉の数だけあなたにあげる

落ち葉の数だけあなたにあげる

銀杏並木に佇むひと。

私は、彼からは見えないところで、座りながら。


静かに、歌う。


彼と、私だけが知っている。最初の、歌。

近くにいても、遠くても。きこえるはずのない歌を、彼は。

「ここにいるのか!?」

なぜ、感じることができたのか。

切ない声に、名前を呼ばれて、歌を、止めた。
彼のいる間は、歌い続けようと、決めていたのに。

彼の声が、夕日に金に染まる銀杏たちに負けないくらい。

私の胸を、差す。

震える手で、顔をおおう。

壊れそうなほど切実な声で、私の名を叫ぶあなたに。
姿を見せて、抱きしめることができたら、どんなに良いだろう。

でも。

彼の前に立っても、ふれようと手をのばしても。
彼は私に気づかない。


私は、ここに存在しないから。


もう、一年が経とうとしていて。
私は、きっと、来年はもうここにいられなくて。

たぶんもうすぐ、消えてしまう。
この葉っぱと同じくらい儚く。

ならせめて。

この声が、歌が、届くのなら。

道を分かちた私たち。
その道を祝うために。
私のほうへ、呼ばないために。

今はまだ、繁るような銀杏の、舞いきるまで。
すべて散りゆくまで。

歌い続けましょう。
あなただけのために。


そうして私は、再び唇を開いた。

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