1ページ過去編
風の冷たい冬の海

崖下から、強い風が吹き付ける。

風に踊る髪を抑えることもせず、僕に背を向けて、彼女はたたずんでいる。


「あなたは知っているのよね?」

唐突に、乾いた声は響き。

「彼の、死んだわけ」

風に消える。



「彼は自殺でしょう?」



僕は、用意していた台詞を読む。

その言葉を聞いて、崖の下をのぞき込むようにしていた彼女は…。

ゆっくり、と、僕を振り返る。

冷え切った白い顔。



「どうかしら?」



微笑みさえ浮かべて、

「私も、知っているのよ?」
--あなたがどんな人間か。

囁く。

風に消されて音は届かず。
しかし何を言われたかは知れた。



僕は表情を無くす。


彼女に歩み寄り、その体を突き飛ばそうと手を伸ばす。

彼女は、抵抗しようともせず、微笑んだまま後ろへと倒れて行き。

「終わりね」


告げられた頭の中が煮えるようで何も考えられず。

目の前から消えた彼女の行方を、しぶきをあげる海に探す。

海は。
彼女を飲み込んだはずの海は。

何事もなかったかのように打ち寄せ。

僕は、何故か、
激しく笑い出した。

喉が涸れ、気がつけば。
けたたましい音の中。

隣に座る男の制服から、パトカーの中だと気づいて、悟った。





ああ。

彼女が告げたのは、
僕の終わり。

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