ハメごろし
SAKURA.



「僕を食べてほしい」


 忌野際に言った彼氏のことばを忠実に守ろうとした。それだけだった。


 もちろん、そんなことはできないと言った。
 だって、そもそもここで死なれたら私が取るべき行動は、警察に電話をするか、救急車を呼ぶか、どちらかをするべきだろう。


 しかし彼はそれを拒否した。


「お願いだ。僕が死んだら君が食べてくれ。それから…………」


「……それが、あなたの望みなんですね?」


「そうだ。君が頷いてくれるまで僕は死ぬ事が出来ないよ」


「あなたは最後の最後までそうやって私を困らせるんですね」


「それでも君には味わって欲しいんだ。きっと気に入る。それに君はまだそこまではやったことがないだろう?」


「……はい」




「だったら…………」


 最後の言葉は耳元でささやくように、吐息とともに私の耳に入ってきた。




 それが、彼氏、高野マサヨシが死ぬ間際に私に言い残した最後の言葉だった。

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