きみと、春が降るこの場所で


普通に生きていたって、何の前触れもなくという言葉がぴったりと当てはまって、俺は今日死ぬかもしれない。


それでも、明日は来る。

明日はそこにあって消えないから。

俺がいなくても、詞織がいなくても、変わらずに明日はやってくる。


ただ、“新島朔のいる明日”と“田山詞織のいる明日”に、ぽっかりと穴が空くだけ。


「ごめん、ごめんな」


「うわわ……あ、謝らないで?あのね、ごめんね、わたしちゃんと明後日もいるよ。生きてるよ。朔に見える場所にいるから、だから謝らないで」


お前だって謝ってるだろ。

あれだけはっきり言い切ったくせに、簡単に明後日も生きているなんて宣言していいのか。


俺に見える場所にいるって、嘘じゃない事を証明してから言えよ。


だって、いつか、嘘になるんだろう?


「ね、朔。ありがとうね、覚えててくれて。またねって約束、叶えてくれてありがとう」


「やめろ」


「え…?」


またねって、そんな一言が詞織にとっては約束になるのか。

確かに叶ったけれど、こんなにも遠い。


どれだけ遠回りをした約束なのか、わかってるのかよ。


礼なんていらない。まだ、いらないから。


「もう1回、約束しろよ」


「え、えっと…?」


「またねって、言えばいいんだよ」


そうしたら、また会えるんだろう。

今日、この場所で会えたように。


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