きみと、春が降るこの場所で
◇
詞織と知り合ってから、何度となく病院には通ったけれど、1階より上のフロアに行くのは初めてだ。
エレベーターに乗り込んで、5階で降りる。
神経内科だか脳神経外科だか、よくわかんねえけれど、部屋番号的に5階で合っていると思う。
神経内科。外科との違いもロクにわからないけれど、内科は手術をしないんだっけか。
詞織の病名すら知らないのに、俺があれこれ悩んだところで、何も解決はしない。
そもそも、俺が勝手に調べたりする事を、詞織は望まないだろう。
思いのほか静かなフロアを制服姿の男が歩いている事には誰も注目していない。
そんなもんなのかな。
ナースステーションの前を通りかかる時に、看護師と目が合って会釈をされたけれど、特に何も言われなかった。
どの部屋もドアが開け放たれていて、静かな部屋もあれば、ワイワイと賑やかな部屋もある。
511、512、513。
南側の、ちょうど通路の真ん中あたりの部屋に【513】のプレートを見つけた。
本当に入院しているんだな、あいつ。
パジャマ姿を見ても、子供らに慕われている所を見ても、いまいち現実味がなかった。
詞織の病室だけドアが完全に閉まっている事を不思議に思いながら、ノックをする。
すぐに返事が返ってきて、内側からドアがスライドされた。
わざわざ開けに来なくてもいいのに、俺だってわかったんだろうな。
俺を見上げるなり、嬉しそうに笑う詞織の頭を、いつものように撫でる。
「よかったぁ…朔が迷子になってるんじゃないかと思って、探しに行こうとしてたんだよ」
「迷子にはならねえけど、大体の場所は教えとけよ」
詞織に促されて、病室に足を踏み込む。
てっきり薬品の匂いが充満していると思ったのに、嗅ぎ慣れた柔軟剤の匂いくらいしかしない。
「ドア、ちゃんと閉めてね。開けっ放しにしてるの、嫌いなの」
「やっぱ開けてるのが普通なのか?」
風が入ってくるし、閉めていても問題はないと思うんだが。
「知らない。皆そうしてるだけだよ。寒いし、暖房の意味がないから、閉めてもいいのにね」