小夜啼鳥が愛を詠う
わすれた憧憬
楽しい夜だった。

直前に迫った期末テストのため、夕食をいただいた後、野木さんと私は勉強するはずだった。
が、光くんが、私達のノートを覗き込んで、的確なアドバイスをくれたので、あっという間におさらいできてしまった。

いわゆる、ヤマカンだ。

「……でも、ココを理解するためには、この方程式の応用も必要だし……」
あまりにもバサバサと、光くんが切り捨てていくので、つい私は口をとがらせた。

「それって、非効率的だと思うよ。いらないいらない。」

光くんセレクトの問題だけを抽出して、野木さんは大満足。

「やー。小門兄のおかげで、実に有効に時間を使えた。ありがとう。じゃ!野木は登り窯の火の番に参加してくる。おやすみ。」
「え!野木さん、お風呂、一緒に入らないの?」
「1日ぐらい、入らなくても平気。野木はお風呂に入りに来たんじゃなくて、火を見に来たわけだし。じゃあ、行くとする!」

野木さんはそう言い置いて、さっさと行ってしまった。

「……明田先生がいないからって……野木さん、女の子なのに……。」

光くんも朝秀先生も対象外ってことなのかな。

でも光くんは肩をすくめた。
「いや。明田さんがいても野木さんは、自分を貫く子だよ。でもそれでいいんじゃない?明田さん、奔放な子のほうが合うだろうし。」

光くんの言葉に私は、固まった。

……光くんや彩瀬さんみたいに奔放な子がお好き……ってわけね。
ははは……。


片付けてると、ドアがノックされた。
「はい?」
「俺。さっき野木ちゃん飛び出してったけど、終わった?もう、いい?」

朝秀先生だ。
途端に光くんの顔がむっつりしちゃった。

あーあ。

「どうぞ。」
と言うまでもなく、光くんが席を立った。
入れ違いで出て行くつもりらしい。

ほんっとに……。

「おーい。光くん。え!待って!君にお客さんだから!」

まるで猫のように、俊敏にすぐ横をすり抜けた光くんを、朝秀先生が引き留める。

「お客さん?」

綺麗なお顔を歪めて、光くんが振り返った。
ら、低い声がドアの向こうから響いてきた。

「押忍!……久しぶりやな。」

気合いの入った「押忍」に、びっくりした。

でも、そこからの光くんの変貌には、さらにびっくりだよ。

「坂巻さんっ!!!」

光くんの声もお顔も、パーッと明るくはじけた。
< 129 / 613 >

この作品をシェア

pagetop