瞬間、恋をした



なんて言おうとしたんだろう。

「ごめんね」か「ありがとう」か。
考えられるのは、それくらい。


昇降口に着いて、自分の下駄箱の扉を開いてローファーを取り出そうとすると。

ローファーの上に、紙パックのオレンジジュースと、ルーズリーフの切れ端の小さな紙が一枚置いてあった。


そこには【中谷くんありがとう 高梨】とだけ、きれいな字で書いてあった。


あのとき、「ありがとう」を言おうとしたんだろうか……。

それなら、悪いことしたなあ。


っつーか、俺の名前知ってたんだ。
……って、おばちゃん先生が俺のことをそう呼んでたから、聞いただけか。


紙はブレザーの内ポケットに入ってる生徒手帳に挟んで、昇降口を出てから紙パックにストローをさした。



「うわ、酸っぱ……」



100パーセントだからか、味は濃いし酸っぱいし……。

まあ、いいか。
せっかく、あの高梨さんがくれたんだし。



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