彼女のことは俺が守る【完全版】
 でも、海斗さんの言葉に被せるように声を出したのは高取さんで、その言葉に私はどうして高取さんが私と結婚しろと言った意味も分かった。高取さんはマネージャーとしてとは言っていたけど、それだけじゃない思いが海斗さんにあるのだろう。最後の『回避』という言葉は少しだけ語尾が震えていた。


 海斗さんの思いも、高取さんの思いも分かった今、私には一つの答えしかなかった。本当なら私のことを本当に好きな人と結婚したかったと思う。


 でも、今の私は海斗さんが好きで、海斗さんの為になるなら、『偽装結婚』でも構わないと思っている。周りの人から見ればバカなことをしていると思われるかもしれないけど、海斗さんが私を大事にしてくれるように私も海斗さんのことを大事にしたい。


「海斗さん。リスクが回避出来るならそうしてください」 


 私の声は静かなリビングに妙に響いた。


 海斗さんは私の言葉が聞こえているはずなのに、何も言わずにただ、私を見つめる。驚いて何も言葉が出ないという風にしか見えない海斗さんが口を開いたのはしばらくしてからだった。


「里桜。わかっているのか、結婚は簡単なことじゃない」


 結婚は簡単なことじゃないのくらい私も知っている。


 芸能人である海斗さんと結婚したとしてもそれは短い期間だけのことになるだろう。それでも、私は今を選ぶ。私も海斗さんを守りたいと思う。
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