彼女のことは俺が守る【完全版】
 出しただけでそれが何かは分かる。薄手の紙に茶色のインクで印刷がされてあるそれは『婚姻届』だった。


 これだけでも普通なら驚くのに、それ以上に私を驚かせたのはその婚姻届には署名がされてあり、きちんとハンコも押されている。昨日から篠崎海が言っていたのは冗談でもからかったわけでもなく篠崎海の本気だった。婚姻届には『篠崎海斗』と綺麗に書かれていた。


「あとは里桜がサインしてハンコを押せば、里桜は俺の妻になれるよ」



 本当に木曜日から私の人生はどうしてこんなにも加速するのだろう。余りに驚きすぎて声も出ない。まさか、婚姻届まで用意されているとは思いもしなかった。そんな私に篠崎海は穏やかな声を響かせた。


「明日の日曜日から一週間、京都へロケに行くことになっている。それにこれは今すぐ書いて欲しいとは言わないから、俺が帰ってくるまで考えてくれたらそれでいい。それよりも今日の夕方だけど、仕事が終わり次第連絡して欲しい。里桜が生活に必要なものを買いに行こう」


 篠崎海の話を聞いていると私と結婚するのはもう決定事項のような気がした。婚姻届はロケから帰ってきてからと言うけど、考えてくれたらいいとは言うけど、次第に篠崎海の思うとおりに流れて行ってしまう気がする。篠崎海はとってもいい人だと昨日からの行動で分かるし、本当に感謝もしている。だけど、偽装とはいえ、結婚となると躊躇する。

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