彼女は僕を「君」と呼ぶ

「何々?」

後ろから付いてこない維の存在に漸く気付いたのか、随分と先を歩いていたのに引き返して島崎が隣から覗き込んだ。

その声につられて友人の視線が一気に窓の外に向く。

幸い既に真隣を遠ざかり、丁度、彼女は友人らに重なって姿は見えなかった様だが、隣で馬鹿らしい値踏みが始まる。

「俺は一番手前が可愛い」「お前見る目ないな」「真ん中、美人」「維は?」

「おれはよく見えなかった」

平然と嘘を吐くと、つまらないと受けたものの、それ以上追及はしてこなかった。
近くの友人より遠くの可愛い女の子と言ったところか。

「女の子はやっぱり髪が長い方がいいよな」

一人がそんな事を言った。

「どうして」
「女の子って感じするだろ」
「分かる。黒髪のな」
「清楚な感じな」

きっと男が馬鹿だと言われるのはこういうところにあるのかもしれない。

見かけの僅かな情報だけで全てを知った気になる。
その上、未だに絵に描いたような清純が全てだと思うことも。

維がどうしてこんなにも客観視出来るかといえば、全ては3つ上の姉のお陰だろう。

黒髪ロング。ふわりと口元に手を当てて笑うなど、それはお外向きの仮の姿だ。

決して、外見で騙されてはいけないというのはよく知っている。

おれは違う。そう思いたいものだ。

長い髪は零れず、小野寺教諭も好きなのだろうか。
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