あまつぶひとしずく
ふと視線を横にやれば、静音の一挙一動に揺れる康太の姿。
それは付き合う前から変わってなんかいないはずなのに、ふたりの空気には昨日までと違う安心感と甘さがある。
「あ、悪い智沙!
言うの忘れてたんだけど、昨日お前に借りた傘壊した!」
「はあ?」
なに言ってんのこいつ。
「あのね、風がちょっときつくってね……その、折れちゃっんだ」
静音までが慌てて事情を説明してきた。
眉を下げて、困ったようにごめんねと瞳を潤ませる。
いやーごめーん、とやけに軽い康太は気に触るけど、仕方がない。
「まぁ、いいよ」
ふぅ、と息をこぼせば、「あれ、キレてないんだ?」なんて康太が様子をうかがってくる。
その態度にキレていいかな。
きっとひと睨みすると、顔をそらしてくる。
そのまま、昨日あたしの傘をつかんでいたはずの右手に視線をやる。
あたしの傘を手に、あたし以外の女の子が濡れないように気をつける康太。
静音がいない方の肩はきっと濡れていただろう。
……そんな傘、もう使えるわけない。
どうせ、もう2度と手にすることはできないだろうと思っていた。