ぼくらの奇譚集  1、双葉さんの話
「変な人生だな」
 はづみは眉根をよせた。
「作り話?」
「何でだよ。本当の話。や、うん、どこまで本当かわかんないけど、本当にきいた話ではある」
 双葉さんはうそをつく人じゃない。
 面白くしてた可能性はあるけど。
「結局、人生には笑いと食と性が大事ってことか?」
「まとめるなよ、そんな風に。身もふたもないなぁ」
 はづみらしい。
「いや、でも……。呪いについての話かもな。俺にはそっちの方がしっくりくる。食べれないのはある種の呪いだろ。教祖に似てるのも呪い。そこから食も笑いも性も得て、呪いから解放された……っていい話にきこえるけど、それも陽の呪いじゃないか?今度は落語と彼女のとりこになったんだから。陰の呪いから、陽の呪いに反転したんだ」
 親指と人差し指をくるっと回し、彼は「反転」を表した。
 極端な意見だな。「でもさ、それってふつうのことだろ?誰にもあるもんじゃんか。お前は人生そのものを呪いだといいたいの?」
「まぁ……、そうかもな。うん。そういわれれば。人生って呪いを受けいれるか受けいれないかってことなのかな」
「幸せのことを呪いっていうの、お前だけだよ」
 僕は双葉さんとおなじくらい、はづみが心配になった。
 



 のちのち、双葉さんは彼女と結婚した。
 そのまま義父に弟子入りした。
 数年して、高座をはづみと観にいったことがある。そのとき、また不思議な出来事があったのだけれど、それはまた別の話だ。

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