私を見つけて
古い図書館で
ふと気がついたときには、私は病室じゃないところにいた。

あきらかに病室とは違う色。

こげ茶色の木の床。
壁いっぱいの書物。
高い天井。
窓際に茶色の長机がふたつ並んである。
そこにパイプ椅子が三脚づつ、合計六脚。
全て、窓に向かって座るようになっている。
さながら、自習スペースといったところか。
薄暗くてとても静か。

「図書館……?」

どうやら死んだわけではないらしい。
ここは古い図書館みたいだ。
最近、建てられた図書館はカフェみたいになっていたり、近代風の造りで自然光が入ってきたりするところがあるけれど、この図書館は薄暗くてなんだかおばけが出そうだな、と見渡しながら思った。
そうか。精神だけだと瞬間移動ができるのか。
でも、どうしてこんなところにきてしまったのだろう。

病院の中は、お母さんの後について歩き回ったりしたけど、病院の外に出たのは初めてだ。
時計が見当たらないから、正確な時間はわからないけれど、空の色で五時くらいかな、と思った。
なんだ、外にも出られるんじゃない。
私は少しだけ嬉しくなった。
病院は楽しいところではなかったから。

少し歩いてみると、書棚に『館内、飲食禁止』と書かれた貼り紙があるのを見つけた。
貼り紙は茶色く変色していて端っこの画鋲は取れてしまっている。
でも、そこに捺印された図書館の印鑑のおかげで私はようやくここがどこの図書館なのかわかった。

私の住む街から、飛行機でしかこれないくらい、遠く離れた北の街だ。
私が今までに一度も来たことがない街。

来たいと思ったことがあるわけでもなかった。
どんな県?と言われても、雪がたくさん降る県、くらいの知識しかない。

図書館内には人気(ひとけ)があまりなかった。
少し離れた雑誌や新聞が置いているコーナーのソファにおじさんが二人座っていたくらい。
そのうちのひとりは新聞を広げたまま、寝ているようだ。
カウンターには中年の図書館司書さんがひとり、退屈そうに座っていた。
すぐ隣に新館というものができたという貼り紙を見つけて、納得する。
そっちのほうが明るくてきれいだし、本の種類も多そうだ。
でも、私はこの図書館が気に入った。
なんだかとても落ち着く気がする。

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