居場所をください。



「あの、これ…

沖野さんのマイクはどうすれば…」


「あぁ…差し上げますよ。」


「え、いいんですか?」


「もともと、沖野がステージにマイクを置くのは

ここは私の居場所だって

意味を込めたものだったんです。

引退していくときに置いてく人もいますけど

沖野は誰にも譲れない場所だって

マイクを置いていったんです。

でもそれを五十嵐さんに渡したなら

きっと沖野は、世代交代

あとは頼みましたって意味なんだと思います。

ここはもう、沖野の居場所ではないと

そういう意味なんだと思います。

……なので、それは五十嵐さんがお持ちください。

私も、心から五十嵐さんのご活躍を

お祈りしています。」


橋本さんはそういって私に頭を下げて

去っていった。


「美鈴、帰ろう。」


「あ、うん。」


沖野さんはなにも語らない。

なのに気持ちが通じあっている

マネージャーさんがいる。


こんなにも信頼関係が強いマネージャーさん

なかなかいないよ。



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