居場所をください。



それから美鈴は貴也に電話をしたのか、10分くらい楽しそうに話す美鈴の声だけが聞こえた。

終始笑顔で、きっと貴也も喜んでんだろうな。
なんて想像もできてしまうくらいに。


「美鈴、飯できた。」


「あ、うん。
じゃあ長曽我部さんがご飯使ってくれたし切るね。
仕事頑張ってね~。」


散々話して、美鈴は電話を切った。
佐藤が俺のところに来たときは本当にだるそうだ、何て言ってたけど
……今の美鈴は結構元気だ。

その方がいいに決まってんだけどさ。


「食えそうか?」


「うん、大丈夫。
長曽我部さんのご飯だしね。

いただきまーす。」


俺のご飯なら、って。
どんな理屈だよ。
……まぁ食べれるならそれでいいけどさ。


「貴也、なんだって?」


「あー、うん。
めっちゃ驚いて、めっちゃ心配してきて、とりあえず明日はやく帰るって。」


「まぁ驚くだろうな。
あいつ、来年の美鈴の5周年までは絶対に気を付けるって宣言してたし。」


「え、なにそれ。」


「まぁ男なりのケジメ?」


絶対に避妊するって、それだけは誓ってたもんな。
まぁでも美鈴が基礎体温測ったり低用量ピルとか服用してなきゃ、完璧な避妊なんてできないし
こういうのは授かり物だから仕方ないっちゃ仕方ないけど。


「でも来年のライブはやるんだよね?」


「できればやりたいな。
でも美鈴の意見が今は一番だな。
美鈴が嫌ならやらなくてもいい。
どうする?
今妊娠に気づいたなら生まれるのは恐らく5月中旬くらいだな。
となると、来年のツアー開始は10月だからまだ産後5ヶ月。
しかも練習もとなると、遅くても産後3ヶ月には始めなきゃならない。
ダンスをなくしてもレッスンとかもして体も戻さなきゃならない。
それに美鈴が耐えられるかどうか、だな。
子供の世話をしながらそれができるのか、子供と離れる時間ができるけどそれでもいいのか。」


「そか、練習もあるんだもんね。」


「仕事の話となると俺は事務所の人間として言うけど出来ないことではないからやってほしいとは思う。
だけど美鈴の保護者として、美鈴の兄としてはそんな無理すんなとも言いたいな。」


産後すぐ、慣れない子育てと慣れない生活リズムに加えてのレッスンはかなり過酷になる。
それこそ、デビュー前よりもきつくなるよな、絶対。
そんな酷なこと…俺はお前にさせたくねーよ。


「……やりたいな、私は。」


「いいのか?それで。
本当にきつくなるぞ?」


「だって私は歌手だもん。私は沖野さんや貴也みたいな決断を出す勇気はない。
それに、世間のお母さんたちだって産後すぐに働きに出る人もいるもん。負けてられない。

みんなにはいっぱい迷惑かけちゃうけど、でも
私の歌手人生も、もちろんこれから産まれてくるこの子も、私は犠牲にはできない。」


「……俺が言えたことじゃないけど
無理、すんなよ。」


「うん。ありがと。」



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