華麗なる人生に暗雲があったりなかったり



 実力は五分五分。


 仁も碁は知っているということで食事を待つ間の気晴らしに対戦することになった。


 しかし、遊びだが真剣勝負。


 こいつに負けるのだけは、ごめんだ。


 きっと、仁もそう思ってる。



「悪徳商法の典型だろ。買うのを止めろよ」



 そんな真剣勝負の中、目に付いたのが『くびれができる体操』『グラマーになれる体操』……


 そんな奇妙なDVDだ。



「止めたさ。でも、『効果がでてきたの!』とか言って聞く耳持たずだ」



 一先ず、相手の出方を観察だ。



「それは明らかな気のせいだろ」



「だろ?俺も無駄な努力はやめておけ、って言った。そしたら、一日口を聞いてもらえなかった」



 向こうは大声で騒いでるから聞こえないだろうに、仁は声を細めた。



「それは気の毒な話だな。そのうち、勘違いだと気づくさ。否応なく」



「ああ。早いところ気づいて欲しい」



 仁は、佳苗が哀れでならない、と目頭を押さえ天を仰いだ。


 こんなところで、仁とは妙に気が合う。











「ご飯の支度できたよ。早めに決着つけてね」



 水野がひょっこりソファーの後ろから顔を出した。


 よし、それなら最終局面だ、とっとと勝たせてもらおう。



「佳苗。仁がそこのDVDの効果はまったくないって言ってたぞ」



 にこやかに碁盤を眺める佳苗に仁を指さす。



「お、お前!卑怯だぞ!こいつが先に言ったんだ。『効果があるなんて勘違い』って!」



 佳苗は俺たちを睨みつけた。


 仁の心を乱す作戦は成功したな。


 これで一気に形成は俺に傾く。


 心理戦も戦略だ。


 決して、仁が言うような卑怯な手ではない。


 慌てている仁をよそに、佳苗はふん、と鼻を鳴らした。



「へっぽこな碁を打つ、二人の言葉なんか気にしませんよ~だ」



 それは聞き捨てならない。



「佳苗さん。碁打てるんですか?」



「この二人よりはマシです」



 へっぽこ呼ばわりされるほどレベルは低くない。


 これはDVDの腹いせだな。



「五目並べの話か?」



 俺は仁が唸っているのを尻目にソファーに寝そべった。


 その途端、佳苗の目が吊り上がった。



「仁。退いて。私が打つ」



 仁を無理やり左へ押しやり、佳苗が俺の前に座った。




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