華麗なる人生に暗雲があったりなかったり

疫病神第二号





 それ以降、水野が夕食を作る時は、必ず卵焼きをリクエストするようになった。


 最初のうちは、にっこり頷いてくれたが、



「週何回も飽きるし、偏食はダメ!卵焼きは週一だけ」



 飽きないから作れ、と言ったのに頑固者は譲らない。


 テストも終わり、八月から二ヶ月間の夏休みがやってきた。


 バイトや道場に通いつつ、祭りや何だのと遊び。


 そして、もちろん、水野との食事も欠かさない。


 大学がないおかげで水野と過ごせる時間は十分に取れた。


 特に、九月はバイトが減ったから、なおさら。


 この頃になると、水野も慣れたのか、俺の家でものんびり寛いでいる。


 互いに、バイトも遊びの予定もない日は昼時から一緒にいる。


 本当は朝食も一緒に食いたいところだが、水野は朝が苦手だから無理な話だった。


 水野の遅い朝食と、俺の早い昼飯を一緒に食う。


 そして借りたDVDを一緒に観賞する。


 俺の部屋にはプラズマテレビがある。


 姉貴が結婚式のビンゴ大会で当たったテレビをくれたのだ。


 姉貴のマンションにはもっと良いテレビが置かれているんだろう。


 とにかく、このテレビのおかげで水野は喜んで俺の家に来る。


 テレビの画質の良さとでかさを聞きつけて、男どもがいかがわしいDVDを持って押しかけてきた時にはうんざりしていたが、水野と一緒に飯を食べるようになったら、そんなこともなくなった。


 くだらないDVDを、水野の前に晒したら命はないと脅したおかげだ。


 昼飯を済ませ、DVDを見るのだが水野は途中で寝ることが多い。


 寝る子は育つの歳じゃないのに、良く眠る。


 これにはため息がでる。


 俺に対する警戒心が完全になくなっている。


 男の部屋で、あまつさえ二人きりで寝るなんてな。


 おまけに俺が惚れているのを知っていて。


 おじさんと仁が甘やかしたから、こんなポケポケ娘になったに違いない。


 九月とはいえ、まだ暑い。


 薄手のワンピースから素足が覗く場面を何度目にしたことか。


 生殺しに近いが、こいつの信頼を裏切るつもりは毛頭ない。


 信頼だよな?


 決して、男として意識されていない……ということはないと思いたい。



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