華麗なる人生に暗雲があったりなかったり




「俺が悪かった。頼むから勘弁してくれ」



 謝罪したが、国枝の態度は変わらなかった。


 そして、この状況が一転したのがバレンタインデー。


 例のごとく、彼女気取りで綺麗にラッピングされたチョコを昼休みに持ってきた。


 俺は話しかけられても無視し続ける。


 一緒に弁当を食べてたやつらが、俺を肘で突き始めた。


 もらってやれよ、と。


 これは居た堪れなくなったのと、国枝は男に人気があったから、やつらは騎士道精神を発揮させたのだろう。


 それなら、お前らが貰えば良い。


 俺が受け取ったら、いい気になるに決まって……もがっ。


 途中で口を塞がれた。


 本当に国枝が鬱陶しく、いつまで付き纏われるのかと考えるだけで、鳥肌ものだ。



「チョコ受け取ってくれたら、もう来ないから。お願い」



 涙を目にためながら、震える声で国枝は言った。


 その姿に同情心を起こしたわけではない。


 というより、ますます鬱陶しくなった。


 だが、チョコを貰えばこの鬱陶しさからも解放される。


 仕方ないと、ため息を一つ吐いた。


 俺は国枝の手からチョコをひょいっと取った。


 国枝と周りのやつらの空気も和んだ、ほっと笑みを浮かべている。

















 だが、次の瞬間凍りついた。


 俺がそのチョコをごみ箱に投げ捨てたから。


 見事な弧を描き、綺麗にラッピングがされた本命チョコはごみ箱へ吸い込まれた。


 呆然とごみ箱を見る、国枝に、



「約束は守れよ」



 と言ったが、聞こえていたかのかは定かではない。


 俺は凍りつくやつらを尻目に、一件落着と最後の菓子パンを口に放り込んだ。


 どうせなら、弁当にすれば捨てなかったのにな、と思いながら。


 国枝は宣言通り、俺の前から消えた。


 大勢の前での出来事だったからか、学校中にこの俺の所業が広まった。


 日頃つるんでいるやつらも、こればかりは俺を非難した。


 お前はやり過ぎだ、と。


 俺からしてみれば、貰ったものをどう扱おうが俺の勝手だ。


 残酷だの冷酷だの、色々言われたが、どうとでも言えば良い。


 この出来事で改めたのは、本気の女は絶対相手をしないということだけ。


 以後、俺は年上の遊び慣れした女以外は手を出さなかった。


 そんな国枝が家まで押しかけてきた?




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