華麗なる人生に暗雲があったりなかったり




「小春が迷惑をかけて申し訳ない。小春、お前のせいで時間がおしてるんだ。早く座りなさい」



 立場上、おじさんは厳しい口調で水野を叱った。


 水野はもう一度小声で、ごめんなさい、と言って俺の隣に座る。



「小春さん。気にしないでください。話しながら待ってたんで、あっという間でしたから」



 佳苗や佳苗の両親が水野をフォローしている間に、食事が運ばれてきた。


 ようやく食える。


 水野を軽く睨みつけた。


 お前のせいで、俺の腹は限界だと。


 それからは始終和やかだった。


 俺もにこやかに相槌を打ち、両家の一員のように振舞った。


 水野もしっかり者のお面を被り、人当たりの良い笑みで佳苗の両親と話している。


 化粧で隠したとは言っても、鼻のてっぺんは赤く、目はウサギのようだ。













 水野と佳苗の両親はホテルに泊まるとかで、二次会の話をしている。


 やっぱりフレンチより焼き鳥だ、と。


 俺も誘われたが、丁重に断った。


 なんせ、昨日寝てないから帰って寝たい。


 俺以外は全員参加ということで、別れた。


 もともと、俺がこの場にいるのがおかしかったんだ、丁度良い。


 水野がせっかくなんだから、としつこかったが、鬱陶しいと睨みつけたら大人しくなった。


 それを、仁は満足そうに見ていた。


















 帰り際、仁が俺の耳元で、



「俺の言った通りになったな。お前はこそこそ立ち去るのがお似合いだ」



 不敵な笑みを浮かべる仁を、冷ややかに一瞥しただけで俺は何も言わなかった。


 あんな無様な女のことで、仁と張り合うなんて馬鹿らしい。


 アパートに帰り、慣れない背広を脱いでスウェットに着替えてからベッドに寝転ぶと、三秒で眠れた。


 次の日は実に目覚めの良い朝だった。


 早く寝たけど、起きる時間はいつもと変わりない。


 いつも通りなのに、何故こんなに気分が良いのかと言えば、憑き物が落ちたからだと思う。


 春休みも残り一週間、この貴重な一週間をどう過ごそうか?













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