華麗なる人生に暗雲があったりなかったり





 ただ、一年近く、二人で食べていた夕飯が一人になった。


 その分、他のやつらと飲みに行く機会は増えたが、それでも一人で食べることはある。


 それを物足りなく感じるのは、きっと水野といすぎたせいなのだろう。



















 四月も終わりになりかけた頃、思い立って一人で飲みに行った。


 何故だかわからないが、一人でいると水野がどうしているのか、そんなことばかり考えてしまう。


 今日は特に。


 姉貴と何度か行ったことがある、バーだ。


 姉貴はうまい店を本当に良く知っている。


 酒も例外ではない。


 姉貴に連れて来られた中でも、ここの酒が一番好きだった。


 そして、姉貴と来た時には気づかなかったが若いやつらしかいない。


 そこらへんで男にもたれかかっている女があちらこちらにいる。


 一人で飲みつつ、煙草を吸っていると、女たちが寄ってきた。


 頭の隅で、その女たちを水野と比べている自分がいて、酒のペースも煙草のペースも上がる。


 話しかけてきた女はどれも水野なんかより綺麗だし、ずっと色っぽい。


 何であんな女が好きだったんだ、とますます思う。


 それでも水野の笑顔は魅力的だと思ってしまう。

















 水野のことを頭から追い払おうと結構な量を飲んだ。


 こうなったら、無理やりにでも酒に溺れてしまうのが一番だ。


 酒には強いが溺れようと思えば溺れられるくらいには弱いと思う。


 そんな状態だったからか、背後に人がいることさえまったく気づかなかった。


 後ろからするりと腕が伸びてきて首に巻きつき、背中に身体を押し付けてくる。


 片眉がピクリと上がる。


 その腕を引き剥がそうとしたら、覚えのある香りがした。


 そして、耳元で艶のある声で囁かれる。



「俊君。久しぶり」



 ちらりと目を後ろにやると、そこには思った通りの人物がいた。
























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