華麗なる人生に暗雲があったりなかったり
第2章

新しい朝が来た






 寝起きの良い俺が目覚めたのは6時少し過ぎ。


 隣を見ると、仁が寝ていた。


 俺に背を向けて。


 蹴飛ばしたくなったが、それより水野だ。


 水野は寝ているに違いない。


 朝が苦手な上に、遅くに帰って来たのだろうから。


 とりあえず、着替えて下りていくと台所から物音が聞こえた。


 のれんをくぐり、その人物と目が合った。


 おばさんかと思いきや水野だった。



「あっ、榊田君!おはよ」



 にっこり笑いかけられた。


 呆けながらも挨拶を返す。


 おいおい。


 本当に、仁がどうにかしたらしい。


 何だって、昨日自殺しそうなほど追い詰められたやつが、こんな笑顔なんだ?


 どうすれば、こうなるんだか。


 俺は深いため息を吐いた。


 吐きたくもなる。


 俺が今まで水野を励ましてきたことは、無意味に等しい。


 仁は数時間で絶望から救い上げ、水野に笑顔を取り戻させた。


 水野の中での仁の存在の大きさと、俺の存在の小ささを思い知らされる。



「どうしたの?朝からため息吐いて」



「水野はご機嫌だな」



 鼻歌なんか歌いながら長ネギを切っている。



「今日、佳苗さんのご両親に会いに行くんだって。肝心なところだから気合をいれて朝ごはん作ってるの!」



 ますますわからん。


 仁は諦めたのか?


 そう聞きたかったけど、振れて良いことなのかわからなかった。


 傷つけない保障はない。



「ふーん。お前が気合入れても仕方ないだろ」



 お味噌汁の具は豆腐になめこか。



「そんなことないよ。私も応援してるってわかったら仁くん喜んでくれるもん!」



 付き合いきれない。


 俺は顔を洗いに洗面所へ向かった。


 しばらくすると、仁以外は下りてきた。


 佳苗が水野を手伝っている。


 気になって、覗いてみると水野が卵焼きを伝授している。


 仁が好きな味付けを。


 この心境の変化は何なんだ。




< 76 / 207 >

この作品をシェア

pagetop