御曹司はかりそめ若奥様を溺愛中

しょっぱいおにぎり

涙の理由を問われた。

鈴城君の言った私への思いの全てが本心じゃないって事が悲しかったとは

この状況で言えるわけがない。


もし言ったら・・・

まず、今握られている手がす~~っと離れ

鈴城君がこわばった表情で私を見るのだろう。

そして 
 
「嫌いだと言ったのは嘘だったんだな!俺は俺の事を嫌いな
女と結婚したかったのに・・・今まで俺をだましてたんだ。最低だね~~~!
出てってくれ。そして二度と俺の前に現われないで欲しい」

と妄想出来た。

これがアメリカのコメディードラマだったら普通とは真逆の事を言ってることに

大きな笑い声がきこえきそうだけど

残念ながら私達はこんなコメディーみたいなことを大真面目にやってきた。

今更本音など言えるはずもない。


そして咄嗟に考えた答えが・・・

「あれこそ演技にきまってるじゃない」

私は視線を斜め下に落とした。

「演技?」

鈴城君が怪訝そうな目で私を見た

「そ・・そうよ。だって鈴城君があんな素晴らしい演技したのに
私が他に何を言えばよかった?言いたいことを全部言ってもらったら
私にできることと言ったら・・・気持ちを表現する事しかできないでしょ~
だから・・・泣いた。渾身の演技で・・・それだけ」

これこそが演技だ。

本当の事なんか言えないし、本当の気持ちは墓まで持っていくって

決めたんだから。

「のあ・・・?」

鈴城君は動揺しているのか口を開けたまま私の名を呼んだ。

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