青と口笛に寄せられて


アパートのドアには何故か鍵がかかっていた。
あれ?とは思ったけど、たぶん怜がお風呂か何かに入ってて、用心のために鍵をかけたのだと気にも留めなかった。


おかしい、と気づいたのは玄関で。
怜の革靴と、私の知らないヌーディピンクの「いかにも」な高いヒールのパンプス。


なんだこれ。
なんだ、この靴。
私、こんなん持ってないんだけど。


嫌な予感がした。
キッチンの奥のリビングから、どこかで聞いたことのあるような甲高い笑い声が聞こえたから。
私はこの笑い声を、知ってる。
毎日聞いてるから知ってる。


ドサッと買い物袋を玄関に落として、ずんずん歩いてリビングにつながるドアノブに手をかけた。
ひと思いに勢いよくドアを開ける。


リビングに入って左に配置した、1人暮らしを始めた時に無印良品で購入したベッド。
そこに、奴らがいたのだ。


怜と、会社の後輩の、山田えりか。
超超ブリッコで、女ウケ最悪の女。
よりにもよって、そいつと彼氏の怜が浮気していた。
というか、もはや事を終えてピロートークしていた。


「きゃ、きゃあ〜!」


妙な悲鳴を上げて顔を隠す山田。
事態を飲み込んで焦りまくる怜の顔。


私は部屋の入口に立って、亡霊のように2人をただただ見つめていた。
むしろ落ち武者みたいな姿だったかもしれない。おぞましいほどの怨念つきの。


ギュッと両手を握りしめて、2人を罵ってやろうと覚悟を決めた。
しかしそれは、怜が山田をかばうようにして体を前にしたのを見たことによって、決意が揺らいだ。


なによ、それ。
浮気相手をかばうっていうの。


そう思ったら、何も言う気になれなかった。


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