お願いだから、つかまえて
3. 縮まる距離

佐々木くんの部屋でのホームパーティーは思いの外盛り上がった。
山園さんが集めたという、会社縛りでもない、独身、既婚者、男女入り乱れたメンバーは皆、感じよく楽しい人たちで、
山園さんのセンスや人柄の確かさみたいなものを感じられて、ああ香苗を任せられると、安心したりもした。

一晩で皆随分仲良くなり、次はバーベキューだね! なんて具合でグループラインが作られた。

そこに、ぽん、と写真が送られてきたのは翌日の日曜日だ。

『誰かのお忘れ物です』

送ってきたのは佐々木くんだった。
写真のその華奢な腕時計には見覚えがある。香苗のものだ。

「もー、何やってんだか。」

私は起き抜けに独り言を零し、寝ぼけ眼で歯を磨き始めた。

「おはよう理紗。昨日は遅かったねえ。」

お祖母ちゃんが居間からのんびりした声をかけてくる。

「おはよ、おはあひゃん…」

口をゆすいで私は台所に向かい、冷蔵庫を開けてタッパーを取り出した。

「お祖母ちゃん、トムヤムクンって食べたことある?」
「さあ…ないかもねえ。」

お祖母ちゃんは中学生の時に両親が亡くなった私を引き取り、育ててくれた。
もうゆっくりしてほしいと思うけれど、家でぼーっとしていたってつまらない、と、定年退職してからも平日は毎日のようにパートの仕事をしていて、80歳を超えようとしている今も、しゃんとしている。

「昨日ね、友達が作ってくれたんだけどね。あんまり美味しかったから、ちょっともらってきちゃった。お昼にでも食べてみない?」
「そうしようか。」

それでも最近はめっきり耳が遠くなって、私は少し大きめの声で、ゆっくり、はっきりとおばあちゃんに話しかけるようになった。

「タイのねえ、スープなんだけどねえ、お祖母ちゃん、癖のあるもん意外と好きでしょ。だから好きだと思うんだけど…」

そこで私のスマホが鳴った。パーカーのポケットから取り出して見ると、香苗だ。
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