お願いだから、つかまえて

うーん、そうしたらもう少し下を育てておかないと。引継ぎにはどれくらいの時間を見ていたらいいだろう?

なんてことに思考を半分くらい持っていかれながら言ったら、拓哉くんが私の両肩を掴んで引き離し、顔を覗き込んできた。優しい目が、真ん丸になっている。

「まだ先だからゆっくり考えてくれていいんだよ。無理強いしたくないし。」
「でもそう言われるかなって覚悟はあったのよ。断る理由なんかないじゃない? 拓哉くんのこと全部知ってて結婚したんだから。」
「………」

拓哉くんは、言葉が出ないという感じで、天井を仰いで、目元を手のひらで覆った。

「参ったな。香苗は、いつも即答だ…」
「いけない?」
「僕が長い時間かけて考えてることは何なんだろうって思うよ。香苗には一生敵う気がしないな。」
「それって一生好きってこと?」
「そうだね…」

ため息をついて、でもほっとしたような笑顔で言うから。
この人、全然わかってないんだな。と思った。
必要だって言われたら、私はどんなことだってあなたの願いを叶えるつもりでいるのに。

でもいいの。あなたが私に一生敵わないと思って、一生私につかまってるんだったら、それが一番いいわ。

彼の両眼を見つめて、私は満面の笑みを浮かべた。
幸せにしてあげるから、心配しないで。


香苗って、チャキチャキな奥さんになるんだろうね、といつか言った、理紗の声がふと、耳に蘇った。



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