恋のお試し期間



ああ、私唸ってばっかりで全然話が出来なかった。

最悪だ。

慶吾さんは私との未来をしっかりと考えてくれている、
だけどそれを強制することもなく優しく見守ってくれているのに。
自分に自信がなくたってえっちが得意じゃなくたって、

彼の言葉に、気持ちには即答しなきゃいけなかったのに。

「……慶吾さん、寝ちゃった?」
「ん?どうしたの」

ぎゅっと抱きしめてもらって眠る静かな夜。
でも、里真は寝付けなくて。
ない知恵で考えて、焦って。佐伯を起こす。

「私ね、……私。……こうして一緒に居るのが好きです」
「…そう」
「歳も歳だし、話の輪に入れないし。絶対誰かと交際しなきゃいけないって
焦ってたんですよね。高望みしなければ私でも大丈夫だろうって」

それが見事に失敗続きで、自分に更に自信がなくなった。

「……」
「慶吾さんがお試しで付きあおうって言ってくれた時は冗談だと思った。
でも彼氏が出来るんならいいかもって安易にそこを喜んでました、正直」
「……」
「貴方は真面目に想ってくれたのに不まじめでした。ごめんなさい」
「…今も?」
「今は。……ぜったい。誰にも。慶吾さんを取られたくないです」

こんな私を必要としてくれる大事な人。

三波との過去や矢田との関係が曖昧な所もあるけれど。
これからの長い付き合いをしていく中でそんなものは
どうでもいいだろうし里真も深く聞く気はない。

大事なのは今、だから。

「そっか。ありがとう、里真。嬉しいな」
「……慶吾さん大好き」
「もうそれ以上言わないで。俺、辛くなるから。その、ね?」
「は、はい。…お休みなさい」


言った。

言ってやった。


私の素直な気持ち、彼は怒るかとおもったが大丈夫そう。
もっとベタなことを言おうとかとにかく甘いことを言おうとしたけど
そんな才能のない里真には難しく、シンプルになった。

後はもう達成した安堵感と抱きしめられる温もりで、
子どものようにあっという間に眠りについてしまった。



「……やっとここまで来たんだね、里真。嬉しいよ。本当に」

里真が寝たのを確認してから佐伯は起こさないように小声で言うと
眠る彼女の頭に軽いキスをする。とても幸せそうな表情で。

「君にだけは素直に生きてきたんだ。誠人の手紙もちゃんと君に渡るように
君の友人に託したしね。その後のことは知らないけど、もうどうでもいい事だ。
沢山一緒に居よう、絶対に幸せにする。これからもずっと。里真、……愛してる」

もう一度、今度は頬にキスをして。里真は少し反応をしたがすぐまた眠り。

「おやすみ」


その日を終える。


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