恋のお試し期間



「ほんとにマルゲリータだ」
「注文したの君でしょ」

案内された席についてほわほわと眠気に襲われ気づいたら目の前にアツアツのピザ。
ちょっと休憩した所為だろうか、さっきまで無かった食欲が湧いてきてさっそくひと口。
目の前のあいた椅子に座る彼も制服のまま食べ始める。その後ろでは賑わう店内。

「熱すぎだけどやっぱり美味しい」
「出来たてだからね。やけどしないように気をつけて」
「もう遅い舌ヤケドした」
「そんな感じはしてたけど。ほんとフラグ回収早いよね里真ちゃんは」

熱いピザにトロけるチーズ。ヒリヒリとする舌に苦戦しながらも
あまりにも美味しいからあっという間に食べ終える。
後は水を貰って飲んで。一息つく。今日1番のマトモな食事。

「ごちそうさまでした。お代は」
「あぁ、いいよ。……大変だったみたいだし、さ」
「察してくれますか。さすがお兄ちゃんです」

ちゃんと話はしなくても雰囲気で、というかヤケなのでバレるか。
ヤケ酒の後にココに来るのはこれが初めてでもないし。
自虐してぱちぱち手を叩く里真に彼は苦笑していた。

「じゃあここはお兄ちゃんとしてデザートでも奢ろうかな」
「ティラミスがいいです」
「そういうと思った。すぐ持ってくるね」

空いた皿を持ち厨房へ戻っていく彼を他所に里真は携帯を取り出し
連日アタックし続けてプレゼントもしたのに撃沈した男のアドレスを消した。
彼の反応はそれなりに上々だったと思ったのに。
体の関係も都合のいい女でさえもなれないくらい空気な存在だったとは。

アタックの仕方を間違えたのだろうか。でも、愚痴っても仕方ない。
暫くして可愛いお皿に盛り付けられたティラミスが登場しそちらもおいしく頂く。

「ふー。やっぱりシメは佐伯さんのお店だよね」
「お客様にご満足頂けてよかったです。けど、これから1人で帰るの?」
「はい」
「もう遅いし送って行くよ」
「家がここからそんな遠くないの知ってるでしょ?大丈夫ですって」
「だけど」
「外灯もあるし。人通りもあるし。ほんと佐伯さんは昔っから心配性」
「里真ちゃんが大らかすぎるんじゃないかな。心配だから、弟君に迎えに来てもらおう」
「いいですって。私今年で26ですよ?高校生の弟に迎えに来て貰うとかどんだけ」

そんなハードル高くないはずの男にさえ簡単にフラレるくらい魅力の無い女です。
とは、あまりにも自虐的過ぎて言うのはやめておいた。




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