恋のお試し期間



「おいそこのニヤケ女」
「な、なんですかその酷い言い方」

約束の日を明日に控えワクワクが押さえきれない里真は会社でも心ここにあらず。
自然と口元がニヤついて同期たちに聞かれてデートなんだと素直に返事した。
そんな感じでお昼休みもやっぱりニヤニヤ。

そこへドン引きの表情の矢田が現れる。

「ちょっといいか」

せっかく至福の時間を過ごしていたのに。呼ばれて渋々彼の元へ。

何も失敗してないはず。

でも怒られるんじゃないかとドキドキしながら言葉を待った里真。

「なんですか」
「お前明日忙しいだろ」
「はあ?」
「忙しいよな」
「え。ええ。忙しいです」
「よし。ならいい」

何の話か分からないが一人納得している様子の矢田。

「何がいいんですか?教えてください気持ち悪い」
「美穂子がお前の事を応援したいとかいいだしてさ」
「応援?」
「あの店のオーナーとお前をくっつけてやろうって言い出して。
俺たちとお前等でダブルデートなんてどうだって言い出した」
「はあ。…は?…え?え!?」
「お節介なんだよあいつは。そんな事しなくたっていいってのに」
「…お気持ちはありがたいですが。応援してもらわなくても大丈夫ですから」

最初はあまりにも不釣り合いで冗談かと疑った彼の気持ちは本物だし
今でも愛されている実感は痛いほどある。恋というものに浮かれているせいか
昔ほどの食欲もなくなり、なんと目標マイナスも実はついに達成していた。

まだ報告してないけど。

だから明日のデートで彼に話して正式に彼氏になってもらって

ホテルに泊まりこの前の続きで処女を捨てる覚悟もした。
まだ初体験への恐怖心は拭えないけど。
佐伯は優しくリードしてくれるはずだからきっと大丈夫。

「伝えとく」
「私なんかにも気遣ってくれるなんて。ほんと優しい彼女でよかったですね」
「まるで俺が優しくないみたいな言い方だな」
「そうじゃないですか」

いつも意地悪なことを言って。怒る時は本気で怖い顔をして。

「この前の飯代請求してやろうか」
「ごめんなさい」
「じゃ」
「ありがとうございますって伝えてください」

去っていく矢田に軽く礼をして席に戻る。ダブルデートも悪くないと思ってみたが、
矢田と佐伯が険悪な空気になってしまったら嫌だ。矢田もそれを避けたくて
あんな執拗に明日の予定を聞いてきたのだろう。
詳しい理由は分からないけれど楽しい日にならない事を分かっているから。


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